新しいことをする時、昔を知ってくださる野口さんが頼りになります。

㈱冨美家

藤田 健 様

  • 戦後の食糧難の中、甘味処を開いて人気に

  •  冨美家は、私の祖父が戦前に、現在の錦店があるまさにこの場所で始めた店で、もともとは日用雑貨を扱っていました。戦争から戻って、改めて起こした店が、あんみつ、おぜんざい、おまんじゅうなどの甘味処で、これが1946年(昭和21年)のこと。扱うものをガラリと変えましたが、冨美家という店名は以前のままです。
  •  人工甘味料は一切使いたくないと、戦後の食糧難の中、非常に苦労をして砂糖を調達していました。錦市場の方々には大変お世話になったと聞いています。
  •  そのうちにお客様から「お昼ごはんも食べさせて」とのご要望が増え、始めたのが鍋焼きうどんです。具材が多く贅沢な一品をお手頃な価格で提供したいと、祖父は大奮闘。これが成功して評判となり、しだいに、おうどんが中心の店となっていきました。砂糖を使った、ほんのり甘いお出汁は甘味処・冨美家の名残です。
  • 店はお客様と共にある

  •  祖父はアイデアマンで、粘り強い人でした。斬新なことに挑戦して、失敗も何度も経験しましたが、そこで挫けずにまた新しいことに取り組む。その中で数少なく成功したことが今に残っています(笑)。材料をパックにした商品も「冨美家の味を店で待つことなく、ご家庭でも手軽に味わっていただけたら」と、祖父が開発したものです。松下幸之助さんを尊敬していて、「企業は社会の公器である」との言葉から、当店もお客様と共にあり、お客様に喜んでいただくことが第一と考えていました。
  •  この祖父の思いを今でも大切にしており、私の主な仕事場は、お客様に最も近い直営店や、パック商品を販売している百貨店やスーパーなどの店頭です。お客様が望まれること、その変化をいち早くキャッチし、味・仕様の改良を重ねています。錦小路に面する錦店を2018年10月にリニューアルしたのもその一環です。堺町蛸薬師を下がったところにある本店では創業時代から変わらない定評のあるメニューをご提供するのに対し、錦店では様々な新メニューを考案し、そろえました。
  •  最近では、おばあさん・娘さん・お孫さんの三代で親しんでいただくことも増え、とてもうれしく思っています。
  • 店と建物の歴史を見直す

  •  建物のことは、祖父の時代からお世話になっている野口さんに、すべてお願いしています。錦店のリニューアルに際しては、これまでの改装を私が知ることからのスタートでした。野口さんは昔の図面をずっと保管してくださっていて、それらを見せていただきながら当店の建物の歴史を見直したのです。工事を終えてからも、営業しながら気づいたことなど、すべて思い出せないほど数々お願いしましたが、いつも快くご対応くださいました。新しいことへの挑戦は非常に難しいことですが、よく勝手をわかってくださっている野口さんの存在はありがたく、とても頼りにしています。
  •  これからも「京都でおうどんといえば冨美家」と親しんでいただけるよう、店をしっかり守り、継続していきます。