生け花と建築とは、デザイン的に共通するものがあります。

華道「未生流笹岡」家元

笹岡 隆甫 様

  • 一枚の葉の輪郭まで際立たせる

  •  未生流笹岡は、曾祖父・笹岡竹甫が当時流行した盛花に、古典の技法を活かして創流し、今年(2014)で95年の節目を迎えました。
  •  祖父・勲甫が二代家元を継ぎ、2011年に私が三代家元を継承しました。後継ぎとして祖父の下で3歳から生け花の稽古を続けてきた私としては、ごく自然な流れでしたが、一時、研究者という父の職業に憧れ、自分の好きな建築の道と二足のわらじを履こうかと真剣に考えたこともあります。
  •  生け花と建築とは切っても切れない関係にあり、似た部分も少なくありません。たとえば、当流派では、花の数と種類をなるべく少なくし、最少の要素で洗練された豊かな空間をつくるのを重要視します。一つ一つの枝、花、葉っぱの姿が際立つよう、それらをすべて計算して生けていくのが流派の考え方で、この根底までそぎ落とした。「引き算」 による造形美は、建築家のミースが唱えた「Less is more」と共通するものです。また、生け花が「右長左短」といって、左右非対称を重視するように、日本の建築や造園もそれを好む傾向があります。
  • ※ Less is more … より少ないことは、より豊かなこと
  • プロならではのアイデアに感心

  •  野口さんとは、祖父の代からのおつきあいです。祖父も大の建築好きで、1965年に稽古場・未生会館を建てたほか、あちこちをたえずさわっていて、私が記憶している最初は、母屋の2階に私たち孫用の部屋を増設してくれたときのことです。まだ小学生だった私は、職人さんの働く様子を眺めながら、「建築って面白いなあ」と思ったのを覚えています。
  •  結婚後、その孫部屋を自分たちの住まいにリフォームする際、私自身も設計を考えさせてもらいました。その中で、LDKの2本の柱が構造上抜けず、対応に困っていたら「こうしたらデザインとして面白くなりますよ」と提案していただいたのが、柱聞をカウンターキッチンとし、両端には壁面を取りつけるプラン。片方の壁に開けた窓が部屋のポイントとなり、さすがプロは違うと感心させられました。また、お客様サイドに立った丁寧な仕事ぶりにも感動しましたね。
  •  母屋の日本家屋は、私にとって小さいころから馴染みのある空間で、ガラス1枚、床材1つとっても、今の時代では替えが利きません。庭と縁側で柔らかくつながっているのも魅力で、老朽化している今の稽古場に代えて、近い将来、この庭の見える南側に稽古場をつくろうと思っています。生け花の技術、精神、人はもちろん、生ける空間を残すのも大事ですからね。
  •  私は古典が好きで、数百年の時を経て今に残っているものは、それだけ研ぎ澄まされたもののよさがあります。同時に新しいものを仕掛けようと、いろんな文化の担い手とコラボしています。人と人とがぶつかりあえば、半強制的に新しいことに挑戦せざるを得ませんからね。
  •  夢は、生け花の義務教育化と、2020年の東京オリンピック開会式で花を生けることです。日本人の花との向き合い方は特別で、"花を師匠"と捉え、そこからいろんなことを学ぼうとする。その心を世界に発信していけたらと願っています。